暮らしの工芸

刃物の熱処理  

包丁など刃物の熱処理について

刃物として機能するには、刃先が薄くても曲がらない硬さと、欠けない柔軟性を持ち合わせていることが基本にあります。
刃物は鋼で作るのですが、ただ刃物の形状にしただけでは、いわゆる『なまくら』といわれる形だけのものにしかならず、刃物の機能を持たせるには、必ず『熱処理』という工程を行います。
熱処理というのは『焼きならし』『焼きなまし』『焼き入れ』『焼き戻し』という工程からなるもので、焼きならしと焼きなましは、おもに応力除去で、焼き入れは硬くすること、焼き戻しは、焼き入れをした硬さを少し戻して靭性を出すことです。
手道具の刃物に使われる鋼は高炭素鋼と呼び、必ず焼き戻しをします。

鋼という金属は、鉄に炭素を含んでいるもので、鉄に炭素が約0.3%~2.0%以上含まれると『鉄』が『鋼』という呼び方に変わります。それ以上は『鋳鉄』と呼ばれ、製品は鋳物とも呼ばれます。
鋼は熱処理で硬くすることができますが、鉄は熱処理をしても硬くすることができません。ですので刃物を作る際には焼きの入る、鉄に炭素がある程度含まれた鋼という素材を用いることが前提にあり、鋼に含まれる炭素量で熱処理をしたときの硬さが大体決まります。
包丁などに使用する鋼は、大体1.0~1.3%の炭素量が必要になります。

実際に熱処理で硬さを出す方法ですが、大体800℃位から急冷をすると焼きが入り、冷却速度が早ければ早いほど硬くなります。
この焼きが入る温度は、簡単でわかりやすい判断方法として、磁石にくっつけてみて、つくかつかないかで判断することができます。
このつくか、つかないかの違いは、A1変態点と呼ばれる温度域で、鋼の組織が変化する温度の境目のことなのですが、常温では鉄と炭素は混ざりあっていない状態で、パーライトと呼ばれる組織です。
そこから温度を上げていって鉄に炭素が混ざりあう(固溶する)温度になると磁性がなくなり、オーステナイトという組織にかわるのですが、そのまま自然に冷めると、またパーライトにもどります。
そこでオーステナイトから急冷しますと、混ざりあっていた炭素と鉄が分離する前に固定され組織が硬く変化し、マルテンサイトというとても硬い組織に変化します。
これを焼きが入ったという状態になります。
変態点以下(パーライト)
変態点以上(オーステナイト)
オーステナイトから急冷(マルテンサイト)

焼き入れの際、肝心なのは『臨界区域』と呼ばれる760~550℃までの温度域をなるべく早く均等に冷ますことと『危険区域』と呼ばれる200℃~常温までの温度をゆっくりと冷ますことが肝心です。
この臨界区域というのは、まさに焼きが入る温度領域で、この温度間をいかに早く冷却するかで、焼き入れ後の硬さが決まります。
また、危険区域から常温までの温度は、変態点から急激に収縮していた組織が200℃から急激に膨張し始めるので、焼き割れを防ぐためにゆっくり冷却する必要があります。
薄い刃物は、冷却水に入れた時の歪みが曲がることで逃げやすく、焼き割れが生じにくいのですが、鉈などの厚ものは厚みがあるので歪みが逃げず、完全に冷めきる前に冷却水から引き上げないと割れてしまうおそれがあります。
引き上げるまでの時間が早すぎると焼き入れが不十分ですし、遅いと割れてしまいます。
この、冷却水に入れるタイミングと引き上げるタイミングは、手作業で行う場合、何度も失敗を繰り返しながら感覚で覚えるしかありません。

炭素鋼の急冷の方法としては、一般的に水や油などに入れて急冷します。
高温から冷める速度が早ければ早いほど鋼は硬くなりますが、焼き割れのリスクは高まります。
冷却速度は、水が一秒だとすると 、油は三秒の時間がかかりますので、水より油のほうが焼き割れのリスクは少ないですが、硬さは水より劣ります。
また塩水を使うと、水よりさらに冷却速度が早くなります。
水を用いる場合は、油が混ざらないよう注意が必用ですし、焼き入れ対象物にも油気は厳禁です。

冷却水の温度は冷たすぎると焼き入れ対象物の周りに気泡ができ、冷却を阻害し焼きむらになりやすいので(焼きの入っていない箇所ができる)水は20℃位のぬるま湯が望ましく、油は60~80℃位が良い。
気泡を防ぐ方法として、焼き刃土をぬると均一に冷えて焼きむらがでにくくなりますし、焼き入れの強弱をつけることが出来ます。
焼き刃土といっても、ただ粘土質な泥を塗っただけでは焼いた時に落ちてしまうので、私は塗る場合、粘土に炭の粉と砥石の磨ぎ汁が沈澱したものを混ぜて使っています。

焼き入れでは、あまり高い温度まで上げてしまうと歪みが大きく出て、後々歪みとりに苦労しますし、極端に高いと結晶粒子が荒くなり焼き割れを生じます。

焼き入れはやり直しができません。刃物を作り始めた頃は、必ず何度も何度も失敗をします。
一瞬の遅れや、温度にむらがあると、それまでの苦労が水の泡になります。
また、失敗の結果がすぐにわかることはほとんど無く、砥石にあててほぼ仕上がった頃にわかることが大体です。それは、金属が傷によって光が乱反射しますので、ある程度キズを同じ方向へ整えながら傷を小さなものにしていくことが必用で、つまり磨いていくということですが、そうしないと小さなひび割れなどは見つけることができません。
刃物としての機能をを満たす形にするまで、すでにかなりの手間と時間をかけているので、最初の頃はよく失敗して目が眩んで落ち込むこともよくありましたが、沢山経験をして、必ずセオリー通りにすることで失敗はなくなります。また、理論通りに手が動くよう、感覚を研ぎ澄ますことも大切です。
経験による勘の世界は、なかなか簡単にはいかないのです。

実際の作業では、焼き入れ前に『焼きならし』や『焼きなまし』などの作業をし、加工による応力をあらかじめ取り除きます。
これをやらないと、焼き入れ温度まで上げたときに歪みが生じたり、鋼の組織が均一でなかったりと、焼き入れは組織を固定するので、後々修正できないといった問題が生じます。
焼きならしは、整形などの加工による応力の解放が目的で、A1変態点まで加熱して空冷します。
焼きなましは、焼きならしの状態よりも柔らかくして加工しやすくする目的と『球状化焼きなまし』という、組織が細かく球状化されて、きめの細かい結晶にする目的があります。
球状化焼きなましの方法としては、鍛造時の温度を炉(火床という)に入れる度に徐々に下げて行き、常温で何度も繰り返したたいてから一度焼きならし、A1変態点から時間をかけてゆっくりと温度を下げていきます。
その際、炭火で均等に加熱して火床にそのまま放置するのが良いと思いますが、ほかにも灰の中に入れたりもするようです(灰が断熱材になりますが、灰を余熱する必用がある)
また、焼きなましをすると、焼きならしより鋼が柔らかくなり加工しやすくなりますので、常温では硬い合金鋼などを整形するにも有効です。

焼きの入った鋼はとても硬くて脆く、冬場はコンクリートの上に落としただけで割れてしまう、ガラスみたいな脆さです。
そこで、割れない欠けない粘り強さをだすために焼き入れ後は焼き戻しをしますが、焼き入れ後は一度、できるだけ低い温度まで下げるのが理想的です。

その後、100℃~250℃の範囲内に加熱し焼き戻しをしますが、300℃まで熱してしまうと(青色脆性という)逆に余計鋼を脆くしてしまうので気を付けなければなりません。250℃以上に焼き戻す場合は400℃~600の範囲で戻します(調質といいますが、手道具の刃物では基本的にやりません)
温度は刃物の形状や鋼の種類、焼き入れ方法などによって選択します。
実際の方法として鋼の場合、私はおもに火床の炭火であぶり、水滴を落とした水の弾け具合で温度を見極めていますが、先端など角の部分は温度が上がりやすいので気をつけています。
また、表面を軽く磨いて色で見分ける場合や、ステンレス鋼は放射温度計を使い、素材や用途によって使い分けています。
金属は、じわじわとゆっくり熱が伝わり、表面温度と内部温度は必ずしも同じではないので、焼き戻し時間や温度で調整しています。また、温度計だけにたよらず、作った刃物を実際に使用してみて、自分なりの戻し方を見つけます。
焼き戻しは、焼き入れをしたその日のうちにします。これは時効硬化という時間がたつにつれ硬くなる現象がおこるので、すでにピンピンに硬くなっている鋼がさらに硬くなろうとすると割れてしまう可能性があるからです。

ステンレス鋼は、鋼とは熱処理の方法が少々異なります。
私の使用する銀3というステンレス鋼についてになりますが、焼き入れの前段階はほぼ同じですが、焼き入れ温度は1050℃と高温で、その温度でしばらく保持し、その後空冷で冷却します。
鋼のように冷却水に入れるわけではなく、そのまま常温で冷やすか、扇風機の風などにあてて冷却します。
また、焼き戻しは100℃で戻します。


以上のように刃物は先人が何度も実験し、失敗と成功を繰り返し残した理論の積み重ねから成り立っている技術です。
実際に私が刃物を作るようになって、その理論を知っていくにつれ驚きの連続でした。
たとえば、鋼が真っ赤に焼けている時の組織の状態など、金属顕微鏡で覗いて見ることなど不可能ですし、1000年以上前の刀が作られていた時代には顕微鏡などないのに、現在の理論とほぼ変わらないことを行っていたということです。
金属を扱う学問の冶金学は、もっと幅の広い世界で、私は学者ではないのでその一部しかわかりませんが、個人の鍛冶屋が刃物をつくるのに以上のことは必用な知識です。また、これらの理論と同時に技術を身につけることがまた大変な苦労ですが、目に見えない組織の状態を知識と照らし合わせ想像をしながら作業をし、結果を確認していく技術が刃物を作る仕事の特徴です。










スポンサーサイト

category: 包丁づくり

tb: 0   cm: --

包丁の柄を作る  

栗の原木を柄にするための下準備。

30cmの木割鉈を木口にあてて、木槌でたたいて割ってゆく。
木元竹裏(きもとたけうら)ですから、木は根元のほうから刃を入れます。

DSC_3451_convert_20150118200411.jpg

芯を取り除くように木取りをする。年輪をみると20年生くらいでしょうか。

DSC_3466_convert_20150118200641.jpg


DSC_3481_convert_20150118201126.jpg

半分に割れた。

DSC_3487_convert_20150118200940.jpg

乾燥しやすいように樹皮をむく。樹皮が残っていると虫も入りやすい。
だいぶ前に作った鉈は、今使ってみると柄の形が全然駄目で使いにくい…。

DSC_3492_convert_20150118201630.jpg

芯を抜いて三分割、切って割って皮をむいて、しばらく乾燥させておく。

DSC_3507_convert_20150118201507.jpg

栗の木は、とても加工しやすく水にも強い。
使って行くと経年変化が目に見えてよくわかり、作っても使っても楽しめる木です。

DSC_3371_convert_20150118201831.jpg






category: 包丁づくり

tb: 0   cm: --

燃料づくり  

本年もどうぞよろしくお願い致します。

DSC_0822_convert_20150101161251.jpg






燃料の作り方をちょびっとご紹介。

DSC_3226_convert_20141120230725.jpg

鉄は常温ではとても硬く、火がなければ形を変えることは容易ではありません。
鉄を焼くために使う燃料の炭を作っています。
炭焼きといっても本格的な炭焼きではなく、材料と環境が確保できれば、わりと簡単に鍛冶用の炭をつくることができます。

DSC_2039_convert_20140609205941.jpg

なにやら土器でも出てきそうな穴ですが遺跡ではありません。
炭焼き窯ならぬ、炭焼き穴です。
現在、炭をつくっているここの土地には石が無く、石を積んで炭窯を作る事が難しいので、掘った穴の中で木を燃やして消し炭をつくってみたのが始まりでした。
原材料の木材は、基本的には樹種を選ばず(おもに広葉樹だが、針葉樹も少し)近くで手に入る木材を使用しています。
木材の入手は周囲のご理解が不可欠です。

細い枝の先は焚き付けに、中くらいの太さの枝はそのまま燃やす。太めのものは切り割りして全体の大きさを大体揃える。

_DSC2558_convert_20140609211443.jpg

栗や桜の太いところは、包丁や鉈の柄や鞘に使う事が出来るので、のちに切り割りしてからしばらく乾燥させたあとに道具の一部として生まれ変わります。

_DSC2568_convert_20140609212122.jpg

木の太さがバラバラだと火の通り方もまちまちなので、燃やし方を工夫しないと歩留まりが悪くなります。(切ったり割ったりをして、なるべく大きさを均等に揃えるのがベストだが、現実的に最小減の労力と時間でやる)
焼き方は自己流ですが(消し炭にちゃんとした焼き方があるのかもわからないが)まず細い焚き付けを燃やしてから火の通りにくい太めの木を投入し予熱する。
そのまましばらく燃やして太い木の水分がとび、少し火が通ったら中くらいの太さの木を入れる。
最後に細く火が通りやすくて、且つ炭になりそうなサイズの木を投入する。
たまに棒で突いたりして隙間を無くし、なるべく全体が均一な燃え方になるように配慮する。
この作業の間、仕事場で他の作業を同時進行できます。

_DSC2533_convert_20140609210451.jpg



_DSC2508_convert_20140609210308.jpg

全体に火が通ったところを見計らって、灰にならないうちにトタンをかぶせて空気を遮断。
この時、炎に巻かれて髪の毛がジリジョワッ!と燃えてチリチリになる恐れがあるので気をつける。
隙間があるといつまでも火が消えないので、砂をかけてしっかりと空気を遮断する。

_DSC2583_convert_20140609211005.jpg

焼き上がった炭は、炭窯で焼いた炭には劣るものの、鍛冶の火造りには適している。
この焼き方の場合は、焼いた炭がほとんどバラバラになっていて、多少煙りは出るが何の問題も無く、むしろバラバラになっているので、竹製の「炭通し」を使いふるって大きさを選別することで炭を切る事も無くそのまま使用する事が可能。


炭通し 目の大きさは2種類。
DSC_3211_convert_20141122230848.jpg

目の大きめの炭は、包丁などの刃物に使用。細かい炭は、フライパンや、その他のものに使用しています。

聞いた話によると、以前は工業的にはこのような作り方の炭(燃料)が普通にどこでも使用されていたようです。
昔の工業と言えば鍛冶屋のことでもありますね。




category: 包丁づくり

tb: 0   cm: --

包丁づくり(焼き入れ編)  

包丁づくり(火造り編)で形作った包丁は、そのままでは柔らかく刃物としての機能をまだ持ち合わせていません。熱処理をして包丁に必要とされる硬さを出していきます。

刃物の熱処理はおもに「焼入れ」と「焼き戻し」と呼ばれる工程のことで、高温の状態から何らかの冷却方法によって急冷することで鋼を硬くする方法を焼入れと言います。
包丁に使用する鋼は炭素量が多く、焼入れをするととても硬くなります。焼入れ後そのままでは衝撃等で刃が欠けやすく脆いので、硬くなった鋼を低温で加熱し柔らかさを少し戻す方法を焼き戻しといいます。
この「焼き入れ」と「焼き戻し」は基本的にワンセットで行います。

熱処理を人間に例えるとすれば(変な例え...)真夏の太陽の下で頭も体も熱さで伸びきっている状態で、いきなり冷たいプールに飛び込むと体は硬直しますよね。この例えが焼き入れです。水に入って体が硬直し、冷え切って寒さで震えてるところ日光浴をするとすこし体の硬直が和らぎますね。これが焼き戻しです。
実際に鋼の組織の状態として考えると理屈はぜんぜん違うし乱暴なたとえですが、感覚的な例えとしてはそんなに間違っていないと思います。冶金学がまだ無かった大昔の人はこんな風に考えていたのかもしれません。

鋼は鉄に炭素が添加されたもので、鉄に炭素が混じることによって焼きが入る鋼になります。
ですので、炭素の入っていない鉄を急冷しても焼きは入らず硬くなりません。(表面を高速で削ったりすると研磨熱で応力が残り表面が硬くなることはあります)


熱処理の仕方は製品によって方法も様々ですが、基本的に焼き入れは鋼を高温の状態から急冷することで硬くなります。その方法として、油冷、水冷などがあり、高温の鋼が接触するものによって冷却速度が異なり、硬さが変わります。
早く冷えるとより硬くなり(水冷など)ゆっくり冷えると低めの硬さになります(油冷など)

また、赤くなった鋼を空気中で普通に冷ますことを空冷「焼きならし」と言い、加工に伴う応力が除去されます。
さらに、空気の層を多く含んでいる断熱材のような役割をする「灰」の中などでゆっくり冷ますと鋼は柔らかく加工しやすくなり、このような冷却方法を「焼きなまし」と言います。

包丁は刃が薄いので、強度を保つためにわりと硬めの焼きが入るような方法を設定します。



焼入れは木炭に鞴で風を送り加熱して、水の中に入れて急冷します。
水と言っても、焼入れの適温はぬるま湯で、焼けた鉄片を砥舟(水槽)の中に入れて水の温度を少し上げます。

焼いた鉄片を入れ温度を上げる
1000285_674594505889187_1911873667_n.jpg



焼き入れで刃の形状を固定する前に、微妙な歪みの有無を確認し整えます。
972264_672946142720690_2076156499_n.jpg


焼き入れ温度は、温度が高すぎると鋼の組織が粗くなり、ポロポロ欠けるような刃になってしまいます。あまり極端に高温だと冷やした時に割れてしまいます。逆に温度が低すぎると焼きの入らない部分ができて刃物としての機能を持たなくなってしまいます。どちらにしてもやり直しがきかない一発勝負です。
加熱の仕方にムラがあると、冷え方にもムラが出て歪みを生じますので、全体ができるだけ均一な温度になるよう加熱し、一気に水の中へ入れて冷やします。
 

魂が入る瞬間
1002065_672947192720585_47832217_n.jpg


焼入れ後はとても硬くなっていて、冬場など手が滑って硬いものの上に落としたりするだけで割れてしまうこともあります。
焼入れ後、鋼に少し粘りを出すために焼き戻しをします。
焼き戻しは火の上で炙ってゆっくり加熱します。加熱温度は包丁の上に水滴を落とし、水の弾け具合で焼き戻しの温度を見分けます。


999254_674542219227749_135721421_n.jpg



温度が均一になるように加熱する
7312_672959906052647_986247708_n.jpg



水滴を落とす
1011134_674546349227336_139304315_n.jpg



熱処理完了。
このあと歪みを取りながら、刃を付けていきます。
1002092_674544099227561_129848609_n.jpg


現代では焼入れのときに、温度を一定に保つ装置を用いることが一般的です。
一人で細々とやっている私のような鍛冶はかなりアナログな方法で作業をしています。
焼入れは、刃物に魂を入れると表現されることもあり、焼きを入れた瞬間にその刃物の性質が決まってしまう肝心な作業なのでそう呼ばれるのだと思います。失敗をすると数時間の作業が水泡と帰してしまうので緊張の一瞬です。
その肝心な作業を人間の感によって行うことで魂を入れるという表現になるのではないでしょうか。
誰がどのタイミングでやっても出来てしまう熱処理は製品にバラつきが無く無駄が無いのもよくわかりますが、なにか面白みに欠けると思うのでこのままアナログな熱処理を続けていこうと思っています。
世の中に少しはアナログなものづくりが残っていないと、個人がものを作れる環境はどんどん減ってしまう。
個人でも、ものづくりは出来ますし、結構シンプルな設備と人の技術と知恵で刃物はつくることができます。




category: 包丁づくり

tb: 0   cm: --

包丁づくり(火造り編)  

今年も宜しくお願いします。


包丁づくり(火造り編)

当包丁は鋼を真ん中に挟み両側に地金を合わせた三枚打ちという三層構造で作られています。
和包丁の作り方としてこの鋼と地金(鉄)を組み合わせるという方法が古くから伝えられていますが、この方法のメリットは、炭素量の高い鋼を使うことができるということでしょう。
鋼は鉄に炭素が添加されたもので、炭素量が高くなるにつれて刃をより硬くすることができます。硬くなるにつれて切れ味はよくなりますが、その反面靭性が低下し粘りが無くなるので折れる可能性があります。ですから焼きの入らない(熱処理後硬くならない)地金を鋼に合わせることで真ん中にある鋼のみが硬く、両側の地金は柔らかいままでショックを吸収することができる、研ぎやすく切れ味の良い包丁となります。


533722_587029014645737_839827820_n.jpg

材料は、右側が焼きの入らない鉄、左が焼きの入る鋼です。
この二種類の鉄をくっつけて包丁の形にしていきます。材料は、右側が焼きの入らない鉄(地金)、左が焼きの入る鋼です。 この二種類の鉄をくっつけて包丁の形にしていきます。


421045_587037807978191_761548788_n.jpg

鉄を加熱するための炉のことを、火床(ホド)と呼びます。
火床に木炭を入れて火を熾し、材料を加熱します。

火床の底には鞴(ふいご、送風機)からのびる管がつながっていて、風を送ることによって火床を高温にすることができます。鉄を加熱するための炉のことを、火床(ホド)と呼びます。 火床に木炭を入れて火を熾し、材料を加熱します。 火床の底には鞴(ふいご、送風機)からのびる管がつながっていて、風を送ることによって火床を高温にすることができます。

165068_587038241311481_1313912946_n.jpg

鉄は加熱すると加工しやすくなり、形を自由に変えることができるようになります。 まず刃になる鋼の大きさを鍛造機でたたいて調整します。

406170_587038647978107_639378849_n.jpg

鏨で切ります。

284919_587039224644716_133579414_n.jpg

赤いうちは簡単に切ることができます。

64080_587040677977904_919212852_n.jpg



546196_587052311310074_1835246104_n.jpg

続いて、地金を作っていきます。

307608_587052834643355_1425920233_n.jpg



541884_587053384643300_184969921_n.jpg



268048_587054491309856_1629882735_n.jpg
切る。


423244_587056311309674_635976729_n.jpg

鋼と地金の厚みを微調整。

150683_587057371309568_1084198578_n.jpg

コの字に曲げて、

393006_587058641309441_396543232_n.jpg

三枚打ちの包丁なので鋼を真ん中に挟みます。

400125_587059084642730_2069760578_n.jpg


ここから鍛接という工程に入ります。
鍛接は鉄と鋼をくっつける接合方法で、高温で鉄が溶けだす直前でたたいて接合します。
温度が高すぎると鋼が駄目になってしまい、低すぎるとくっ付かないので、神経を集中させます。

541937_587059481309357_565676410_n.jpg

鋼を一度取り出して鍛接剤を接合部にまんべんなくふりかける。鍛接剤は、鉄粉、硼砂、ホウ酸を混ぜ合わせたもの。 なぜこれを接合部にかけるかというと、鉄を空気中で加熱すると表面が酸化して膜ができます。これを酸化皮膜といいますが、この膜が鉄どうしをくっ付けにくくします。 鍛接材は高温で溶けて酸化皮膜と交じり合い、たたくと衝撃で酸化皮膜を一緒に洗い飛ばし、その瞬間に鉄同士がくっつきます。

396948_587059984642640_1637379930_n.jpg

鍛接剤をまぶしたら再び鋼を挟み込み

13548_587060657975906_1464680540_n.jpg

接合部が空気に触れないよう密着させます。

184595_588408761174429_1430270230_n.jpg

火床に戻して風を送り高温に加熱します。

644207_587061747975797_624605519_n.jpg

鍛接温度になったら、まず軽くたたいて仮付けします。

164684_587064151308890_1271273001_n.jpg

接合部の不純物が衝撃によって飛び出します。

262657_587065601308745_914310091_n.jpg

もう一度加熱して鍛造機で完全に接合します。

68608_587095821305723_294328290_n.jpg

三枚が合わさり一枚になりました。

530434_587096901305615_1110433491_n.jpg

鏨で切り込みをを入れて

537763_587097787972193_2068071779_n.jpg

切っ先を切り落とします。

27898_587098221305483_1934858975_n.jpg

切っ先を整えて

6622_587098891305416_1360164598_n.jpg



530303_587099247972047_1886782511_n.jpg

柄の中に入る、茎(なかご)の部分をつくっていきます。

537967_587100001305305_1419870456_n.jpg

続いてアゴの部分を広げていきます。

165075_587182981297007_425580963_n.jpg



418650_587183851296920_282796393_n.jpg

常温ではなかなか融通の利かない鉄も、熱いうちはとても従順です。


15775_587184414630197_641581541_n.jpg



546243_587100571305248_740794559_n.jpg

包丁の形が見えてきましたね。

64520_587101184638520_46085707_n.jpg

引き続き伸ばしていきます。

163317_588427814505857_276051488_n.jpg

冷めたら

184514_589308367751135_1217687742_n.jpg

熱してを繰り返す。

409553_587102184638420_606659127_n.jpg



61070_587103294638309_1038031032_n.jpg
Photography by 200VPhotography by 200V


大体の形になりました。

このあと整形 ⇒ 熱処理 ⇒ 研ぎの工程へと進んでいきます。






category: 包丁づくり

tb: 0   cm: 0

炭焼き用の原木をどうやって入手するのか。  

鍛冶をするには燃料が必要です。以前は燃料を買っていましたが、燃料代を製品に上乗せして販売することもなかなか難しく、ちょっとキツイなーと思っていました。ちょうどその頃仕事場を増築していて木材の端材がけっこう出てました。夏の暑いときだし、ただ燃やすだけではもったいないから、砂をかけて消し炭を作ってみました。次の日試しにその炭を火床にいれて鉄を焼いてみたら使えるんですよね。樹種は松、杉、檜のごちゃ混ぜでしたが何の問題も無い。それでちょっと大き目の穴を掘ってその中で貰ってきた木材をいっぺんに沢山燃やしてトタンで蓋をして消し炭を作ったらこれもまた使える。そんなことをやっているうちに、木材を扱う仕事をしている友人が仕事で使う木を自分で切り出すようになって、それをたまに手伝うことに。友人は木の幹がほしいけど、枝は要らない。僕は枝で炭焼きがしたくて幹は要らない、枝の太さがそこそこあるので十分炭になる。
風呂を焚く薪が欲しい人、これに木を切ってほしい人が仕事を持ってくる。そんな条件が揃ったときにじゃあやりますかと年に数回、臨時きこり部隊が活動します。メンバーはその時々で変わる。



ちょうど紅葉の時期。色とりどりの色彩にいい感じで酔いしれながら。
1104_567348969947075_1366886672_n.jpg



木の伐採=環境破壊 と考えてしまう人もいるのかな?と思いますが、人間の生活圏に生えている樹木はいずれ手を入れなければならない、成長しますからね。だだっ広い所にポツンと生えているなら問題はないですが、狭い日本ですからそんなことも無く、切ろうか切るまいか考えていたらどんどん大きくなっちゃって、予算とか、木を切る職人の不足で管理に困っている木がけっこうあるようです。特にクレーン車が入れないような場所は困りますね。

今回切ることになった木は欅がメイン、大体がケヤキですね。炭焼きといったらナラ、クヌギを思い浮かべますが、それは家庭用で鍛冶炭はちょっと違います。
鍛冶の炭は松がいいの?なんてよく聞かれるのですが、刀を打つわけではないので樹種にはこだわりません、というかこだわってられませんというほうが妥当でしょうか。樹種に関しては今のところ何を使っても問題ないと考えてます。火力、火の色など若干の違いも見られますが、ごちゃ混ぜであっても炭の焼き方、使い方である程度コントロールすることが出来ると考えています。




今から男たちの熱い戦いが繰り広げられる現場。
竹もテリトリーを広げてジャングル状態。
28000_567351669946805_48980813_n.jpg




575054_567354216613217_562839616_n.jpg
大体近くに家があったり、電線があったり、消火栓があったり。そのまま木を倒すとぶつけて壊してしまうので、倒せる範囲まで枝を落としていくのですが、そのためには木に登らなければなりません。で、・・・遠藤さんが登ります。(僕は登りません、無理!)




安全を確保するために、ツリークライミングに使うハーネスをつけて登ります。
68009_567381816610457_772019412_n.jpg



登っていきます。
9660_567383403276965_1840493817_n.jpg




12925_567383939943578_1188197615_n.jpg



けっこう高いです。
598487_567384256610213_135625936_n.jpg



こんな感じで枝を落としていきます。
395158_567384486610190_1481616568_n.jpg



一番先端を落とすために登る。
561522_567385396610099_2028685284_n.jpg



切り込みをいれて
188413_567388483276457_568357244_n.jpg



倒れはじめた
382139_567388743276431_967265872_n.jpg



シブイッ!!渋すぎる。
532312_567388939943078_80426926_n.jpg



先端の枝が無くなって倒しやすくなった。
65330_567391846609454_30973128_n.jpg




574640_567392423276063_1848405883_n.jpg



こんな感じでバッサバサ切ります。
556827_567392646609374_1115910904_n.jpg



けっこう簡単に切ってるように見えますが(見えないか?)一本一本登るのも大変だし、切るときもかなり慎重に切らないと危ないです。
67602_567392853276020_809579879_n.jpg




556836_567393186609320_284492187_n.jpg
大きな枝をそのまま落とすと衝撃があるので、ワイヤーで吊りながら切って下ろします。



下ろした枝は玉切って
603905_567396449942327_1331411381_n.jpg



トラックへ積み込んで運び出します。これが炭になります。
486375_567397429942229_390458316_n.jpg



ジャングルだったのが、だいぶスッキリ。見晴らしが良くなってきた。
551514_567397959942176_79685670_n.jpg














291839_567398769942095_285662908_n.jpg














枝を下ろしたら、今度は幹を切ります。方向をわりとピンポイントで倒さないとならないので、ワイヤーと滑車を使って引っ張ります。
引っ張る動力は、「チルホール」という手動の携帯ウインチか、重機のウインチで引っ張ります。方向は滑車で調整。
8772_567399169942055_1114621754_n.jpg




417139_567400623275243_186329155_n.jpg



ウインチで引っ張って倒します。
9648_567401096608529_1003263257_n.jpg



木を倒すには「受け口」という、木の幹に2方向からチェーンソーで切り込みを入れて三角に切ります。この向きで倒す方向が決まります。
561490_567401803275125_1621965675_n.jpg



次に「追い口」という切込みを後ろ側から入れると、幹自体が蝶番の役目を果たし、受け口方向に倒れます。木材の、縦方向への繊維の引っ張り強さを利用した方法ですね、理に適っている。
522396_567402129941759_1255043513_n.jpg




倒れた幹は、ウインチと滑車を使って重機の元まで引っ張っていき、トラックへ乗せます。
270042_567405159941456_393978021_n.jpg




259839_567406036608035_236796036_n.jpg




486185_567407626607876_1613270542_n.jpg




21794_567407776607861_350323859_n.jpg




546946_567407916607847_780665129_n.jpg




72109_567408476607791_138576251_n.jpg





さっぱりしましたね。この後この斜面に地すべり対策の工事をするそうです。
74740_567408629941109_721501682_n.jpg




46374_567408789941093_438234995_n.jpg
いい眺めですね。でもこの町も過疎化がかなり深刻な状況はすごく伝わってきますね。
日本の人口は減り始め、少子高齢化社会で下り勾配の線は落ち込む一方でしょう。この里山風景、どうなって行くんでしょうね。




283372_567408939941078_854625944_n.jpg
今回も怪我人など出なくて無事終わりました。登っている人はいつ死んでもおかしくない状況です。冗談抜きに。
おっさんパワー侮れませんね、毎回レベルアップしてます。尊敬してます。

以上、こんな感じで炭焼き用の原木を調達しています。








category: 包丁づくり

tb: 0   cm: 0